「美道」の五大原則でトータルビューティを目指す
初代からその名と意思を引き継いだ山野愛子ジェーンさん
2019/10/01 Total Beauty

多くの方が幸せになれるように取り組まれている山野愛子ジェーンさん 美容業界で「山野」と聞けば、誰もが山野愛子さんを思い浮かべると思います。その初代・山野愛子さんの名を18歳で引き継いだ山野愛子ジェーンさん。教育関係を中心に着装教室、講演活動、技術者育成など、トータルビューティに繋がる事業を幅広く展開されています。山野愛子を襲名し、これまで、そして現在どのような意識を持って取り組んでいるのか。そして、今後目指すものは何なのか、山野愛子ジェーンさんにインタビューさせていただきました。
この記事のINDEX
18歳で山野愛子を襲名し、周囲に支えられつつ校長として歩み始めた
――初代・山野愛子さんといえば、日本の美容界のパイオニアとして多大な貢献をされてきましたが、改めてどのような活動をされてきたのか教えていただけますか?
山野 山野愛子は私の祖母に当たり、祖父の山野治一と夫婦で美容業界を牽引してきた美容家です。国家試験制度や組合、美容業界の仕組みや制度には、だいたい二人が関わっています。
――山野愛子ジェーンさんは、18歳という若さで初代・山野愛子を襲名されていますが、どのような経緯で襲名されることになったのですか?
山野 祖父から「やりなさい」と言われたんです。私は高校卒業後にアメリカへ帰ろうと思っていたんです。そうしたら、「日本に残りなさい」と言われて、私からしたら「何言ってるの?」って感じでしたね(笑)。
当時、私は祖母がそんなに偉大な人だとは知りませんでした。ですから、全く分からない状態からスタートしたんです。昼間は上智大学、夜は美容専門学校に通って、休日は祖母の荷物を持って全国を一緒に回りました。祖父が、「一緒に周らないと、あなた誰?と言われるから」と。最初は酷いと思っていましたが、私や山野のことを考えてくれていたのでしょう。
その後、祖母が急に亡くなったので、「本当に自分が校長になるのか」なんて考える時間はありませんでした。でも、今日、明日とステップバイステップで頑張る気持ちはありましたね。その頃は山野流の先生方が多く、今までの技術を守りつつ教えてもらうという感じでした。まだ二十代でしたので、偉大な初代校長と同じことは絶対にできませんし、やろうとも思っていませんでしたが、総長や周りの先生方、会員様の支えがあったから頑張ることができました。

初代・山野愛子さんと山野愛子ジェーンさん
「美道」とは「髪、顔、装い、精神面、健康面」の五大原則
――山野愛子ジェーンさんが美容の教育者として、理念や大切にされていることはありますか?
山野 一つは「美道(びどう)」です。「美道」は初代が作られた言葉で、私自身はもちろん山野学苑の美容理念でもあります。美の道として、「髪、顔、装い、精神面、健康面」という五大原則がある中でトータルビューティを目指すということです。
それぞれを別々に考えるのではなく、「髪」は一人ひとりに合った髪型の美しさ、「顔」は明るい笑顔が映える化粧の美しさ、「装い」は伝統を活かしながら時代に合った着物の美しさ、さらに「精神美」は素直な心と包容力を持った個々の美しさ、「健康美」は健康的にはつらつとした体の美しさ、という五大原則をトータルに考えたビューティが美容のメインなんです。人は外見だけを気にしがちですが、外見だけをいくら整えても意味がないんですよ。
この美道は美容業界に限らず、どの業界でも大切なことだと思います。例えば、福祉で寝たきりの方のところへ行くときは、看護師やヘルパーさんも、ある程度は身だしなみを整えないといけません。できることとできないことがありますが、少なくとも髪をきちんと梳かし、ポイントメイクなどある程度は行って、恥ずかしくない自分で患者さんに対応することが大切なんです。
そして、もう一つ大切にしているのが「SMILE(スマイル)」です。「SMILE」のSは笑顔。つまりたくさんスマイルすることです。Mはマナーで、先に挨拶し感謝すること、そして感激すること。IはImpressionsで、良い印象を残すこと。そしてLはloveの愛。心から仕事や勉強に取り組むこと。そしてEはエンジョイ。楽しむことです。
「美道」にしても「SMILE」にしても、中途半端な気持ちで取り組むと、結果も中途半端になります。だから一生懸命やるんです。

渋谷区の山野ホールで行われた「納涼打ち水大作戦」で、生徒さんと一緒に打ち水をする山野愛子ジェーンさん
――今お聞きした「美道」や「SMILE」に繋がるかもしれませんが、山野学苑が実践されている「美容福祉」について教えてください。
山野 祖母が入院したときに、シャンプーやカットをしてもらいたいけど、看護師さんにやってもらったところうまくできませんでした。そこで銀座店の店長だった美容師を呼んだのですが、点滴をしているので少し動かすだけで痛い。今度は美容師だから、病人をどのように動かしたら良いのか分からないのです。美容師は患者さんを動かすのが不安で、看護師は美容のことが分からない。それで美容と看護の両方ができる人が必要だと考え、美容と福祉の2つを組み合わせた「美容福祉学科」を立ち上げたのです。
ただ、美容師と福祉の両方の資格を持っていても残念ながら働ける場所がありませんでした。そこで高いレベルの免許ではなく、車イスや寝たきりの方に福祉の意識を持って美容の施術ができる美容師さんを育てるようにしたわけです。
美容福祉もそうですが、とにかく助け合うことが大切ですね。日本には、苦しんでいる方がたくさんいます。私は、娘にも一人でいる人がいれば声かけるよう、毎朝出かけるときに話しているんです。学校でも、誰かが一人でいたら声かけましょうと言っています。
――その方が現場でスキルが活かせるというわけですね。
山野 そうなんです。若いころから美容室に通ってくださったお客様が、高齢になって来られなくなったとしても、こちらから伺うことができます。お家でできるように、携帯用のシャンプー台と椅子を揃えて、大切なお客様に対応できるようになりました。訪問看護の美容師版のような感じですね。皆さん、大切なお客様が来られなくなったら、自分からお伺いしたいんですよ。でも、どうしたらいいのか分からないので、授業を受けに来られる方もたくさんいます。

山野美容専門学校で生徒さんにメイクの講義をする山野愛子ジェーンさん
美容には人々をハッピーにし、癒すパワーがある
――初代・山野愛子さんの時代と、山野愛子ジェーンさんがトップに立って活動されるようになってからで、美容業界で変わったことはありますか?
山野 昔と違い、今は自分の店を持ちたいという人が減りましたね。大変だから誰かの下で働いていたいというのが理由です。でも、なかには有名になりたい、人を幸せにしてあげたいという人もいて、そういう意識を持って頑張っている生徒がいることはとても嬉しいことです。
――現在美容に携わっている方に、伝えたいことはありますか?
山野 ビューティのパワーはとても強いです。例えば、美容室は美容を通してハッピーにさせる、癒せる場所なんです。トータルビューティは、見た目を美しくしてあげることで心もハッピーにしてあげることができます。美容関係の皆様には、人をハッピーにさせるパワーがあることを意識して仕事に取り組んでほしいですね。
ビジネスとしてもバランスを取りながら、美容を通じて幸せな人を増やしていきたい
――お話を伺っていて、山野愛子ジェーンさんは相手の方に喜んでいただきたい、感謝しようという思いでやってこられたことが、すごく伝わってきました。
山野 私は頭よりもハートで動く方なんです。とはいえ、ビジネスにはバランスも必要です。私のようにハートで動く人がいたら、経営面を数字で考え、動く人と組み合わせなくてはいけません。これは、初代の山野愛子と祖父 治一がそうだと思っています。現在は、私は校長として学生と向き合い技術を教え、総長は経営面を考えてやっています。そうやって一生懸命に取り組んでいれば、最終的には良い結果に繋がっていくと思うんです。とにかく頑張って魅力のある環境をつくることです。みんなが、信頼し合い、チェックしながら、同じ目標に向かって進んでいくことが大切だと思っています。
――どちらかというと、チームという考え方で経営されているのでしょうか?
山野 その通りです。日本は縦社会に慣れていますが、みんなパーフェクトではないので、弱い部分を補えるチームワークはとても重要です。「自分が」という気持ちが強くなってしまうとチームとしてうまくいかないので、そのバランスが難しいんですよ。私もまだまだ勉強中です。

山野美容専門学校のオープンキャンパスでダンスを披露したYamabi dance team
――最後に、これから挑戦したいことについて教えてください。
山野 障がいを持っている方々と、共に生き生きと幸せを感じながら過ごせる社会を作れたらと思っています。薬を飲んだり病院に行ったりすることも必要ですが、着物やお化粧、ヘアメイクをしてみる。あるいは、話しかけるだけでもトータルビューティとして大切なことですから、もう少し広げていきたいですね。もっと、美容を通して多くの皆さまを幸せにしてあげたいと思います。

学校法人山野学苑理事長 / 山野美容芸術短期大学学長 /
山野美容専門学校校長 / 一般財団法人 国際美容協会理事長 /
山野流着装宗家 / 公益財団法人 日本国際問題研究所評議員 /
一般社団法人 日本美容福祉学会副理事長
山野愛子ジェーン さん
米国ロサンゼルス生まれ。
上智大学外国語比較文化学科、山野美容専門学校卒業。日本の美容界の草分け祖母・山野愛子のもと美容を学び、1984年2代目を襲名。「髪・顔・装い・精神美・健康美」のトータルビューティを指針とした「美道(びどう)」の教えを継承し、豊かな感性と優れた国際感覚で美容界のリーダーとして美容教育ときもの文化の普及に専念している。
また美容を通して人生を生き生きと輝かせる活動『スマイルプロジェクト』では、美容と福祉を融合させた「美容福祉」の実践や全国各地の高校での「美道講話」を通じ、コミュニケーションと精神美の重要性を呼びかけている。
撮影:坂本 康太郎
ビノタネについて詳しく知りたい方
お問い合わせはコチラ