メンズメイクと女性メイクの違いは「きれいになりすぎない」こと
メンズメイクの第一人者として業界を牽引する高橋弘樹さん
2019/09/18 Makeup

メンズメイクアップアドバイザー(ヘア&メイクアップアーティスト)の高橋 弘樹さん 男性の美容が一般的ではなかった時代からその必要性に着目し、メイクアップアドバイザーを目指されたという高橋弘樹さん。今では業界の方からも相談や講演依頼が入るほど、メンズメイクの第一人者として認知されています。そんな高橋さんに、メンズメイクに着目したキッカケや女性のメイクとの違いなど、インタビューさせていただきました。
この記事のINDEX
肌に対する自身の悩みから、男性のメイクについて世の中の見方を変えたかった
――メイクアップアドバイザーを目指そうと思われたキッカケを教えてください。
高橋 私はもともと肌が荒れやすく、エステやスキンケアを試したのですが改善できませんでした。そこで10年ほど前、まだ男性がファンデーションを塗ることに偏見があった頃でしたが、一度カバーしてみたら肌がきれいに見えるようになったんです。男性だって女性と同じように肌荒れに悩みがありますし、見た目で業績やコミュニケーションの仕方が変わると思っていました。そんな世の中を変えたいと思ったのが、メイクアップアドバイザーを目指すことにしたキッカケです。その後、ヘアメイクの事務所にいたり、美容部員だったりとサロンワークしていたことから、今はヘア&メイクアップアーティストとして活動しています。
――なぜ、メンズメイクに着目したのでしょうか?
高橋 私はずっと男性美容・メンズメイクをやりたかったんです。メンズメイクをオネエ系やビジュアル系ではない、日常で使えるメイクに落とし込めないかなと考え、美容学校に入ったときからずっと自分なりにまとめていました。ですから、これがキッカケということはなくて、もともとメンズメイクをやりたかったんです。ゴールはあくまで現在取り組んでいることで、その過程として女性美容についても学んできたんです。やはり女性メイクは歴史が長いので、まずはそこを勉強し、理解するところから始めようと思ったんです。
――「自分なりにまとめていた」とのことですが、例えばどのようなことですか?
高橋 10年間、ありとあらゆる化粧品を自分の顔で試しました。また、モデルの方を使って、これだったら使えるというものをリストアップしていきました。当時は、男性化粧品はほとんどなかったので、女性化粧品の中でいかに使いこなすかという感じでしたね。男性がパールとかラメを使うことってほぼありませんが、使えるラメを独自にためていく作業をずっとやってきました。
YouTubeを中心とした情報発信で業界からの問い合わせが増加
――あまりメンズメイクが浸透していなかった時代に、メンズメイク専門で打ち出すのに取り組んだことはありますか?
高橋 SNSですね。私が独立した4年前は、まだメンズメイクという言葉はピンとこないところがありました。でも、ちょうど男性ユーチューバーがメイクをやり始めたんです。それで浸透していったとき、私ももっと一般層に落とし込んだメイク理論をSNSで発信していきました。自分でもユーチューブチャンネルを持っていまいすが、本来の趣旨は一般の方向けの悩みにお答えしたり、こういう商品とかメイクの方法がいいですよとお伝えすることです。ただ現在はどちらかというと業界の方がよく見てくれています。ですから一般の方とコミュニケーションする感じではなく、業界の方が見てお問い合わせをくださることが多いですし、講師に呼ばれることもあります。
もともとメンズメイクやメンズ美容というものは顕在化しないものだったので、皆さん男性のコスメはネットから買っていたんです。つまり、当時はネット中心のカテゴリーだったので、ネットで「これだけ変わるんだよ」「嫌なメイク感などは出ていないよね」といった部分を打ち出し、他の人がつぶやいて広まっていく流れが続いています。


一般の方から業界の方まで、幅広くメイクについてセミナーを行っています。
美しさがゴールではなく、現状より少しアップデートする程度を意識する
――メンズ美容についてどのような悩みが多いですか?
高橋 一つは、やはり肌ですね。肌をなんとなくきれいに見せたいというものです。あとは、全体的にかっこよくなりたいというのもあります。私のレッスンなどでいらっしゃる方も、「なんかちょっと変えたい」といった相談が多いですね。一般の人は、専門知識がない方が多いですし、やり方が難しいんですよ。初歩的な質問をされた場合は、ひとまず肌を整えてみせることがとても大切とお伝えしています。フェイスメイクの基本は、そこからです。
――メンズメイクは、女性のメイクとどのようなところが違いますか?
高橋 決定的な違いは、「きれいに作り過ぎない」というところです。女性美容のゴールはきれいになることなんですよ。ただ弊社は美しさをゴールにしていません。それが企業理念になっています。男性美容において、美しさは必要ないと思っているんです。 美しくなることがゴールだったら、女性と同じようにメイクすれば良いじゃないですか。でもそうではなく、ちょっと眉毛を整えたり、今よりも少しアップデートしたりする程度を意識しています。そこが、メンズメイクと女性メイクの大きな違いだと思います。 とはいえ、その塩梅がすごく難しいんですけどね。眉毛ひとつにしても、綺麗に整えすぎてしまうと人工的になってしまいます。じゃあ、女性のようにナチュラルにやればいい、バレないようにすればいいという人がすごく多いんですけど、それでは意味がないと思うんですね。バレないように塗るんだったら、最初から塗る必要がありません。塗っているのが分かってもいいから、あまり不快感がない色味の仕上がり方、などの理論を今まとめているところです。

メンズメイクのビフォー&アフター。この違いが分かりますか?
――高橋さんがメンズメイクを打ち出してから、どのような変化が見られますか?
高橋 「一般男性のパートナーになりたい」というのが弊社のスローガンでもありますが、普通にメイクしている男性が増えてきましたね。YouTubeの影響はとても大きいと思っています。メイクしている人たちがYouTubeで動画を投稿すると、「こうなるんだ」といった感じで見える化していくんです。その中で「男もやって良いんだ」と、メイクする男性が周りでも増えてきてはいる感覚はあります。
男性が安心してメンズコスメを使えるよう、メーカーとの間に立って教えてあげる
――御社の事業の一つにアプリの「肌cam」がありますが、これはどのようなものですか?
高橋 書籍を出版したとき、コンシーラーのお勧めを出したんです。コンシーラーは、肌色に合わせて選ばなければいけないですよね。でも、男性は自分の肌が色黒なのか標準なのか、あるいは色白なのかあまり分かっていないんです。そこで、本の表紙に色のカラーチャートをつけて、鏡を見てやってみるのはどうかという話が出たんですよ。でも、結局みんなが持っているものはスマホなので、アプリを作った方が早いかなと思って開発したのが「肌cam」です。アプリの肌色診断で色白と出てきたら、本にある色白のリストを見ればいい。もともとは、そういう目的で作ったアプリになります。
アプリで肌色診断をして、自分の色を知ったうえでメイクができるようになることが一番の目的です。今はネットでいろいろなビジネスができるので、収益だけを考えたら、もっと違うビジネスがあると思います。でも、役に立たないものや不必要な情報を与えたくないので、お客様の立場に立ってやることを常に意識しています。
――PB商品としてメンズコスメは開発されないんですか?
高橋 自社ブランドを持つことは、検討したことがあります。でも、現在はいろんなメーカーが出てきているからこそ、使い方や使いこなし方など、弊社にしかできないことに取り組もうと決めました。メーカーになるのではなく、メーカーとお客様の間に入って使い方を教えてあげられる会社です。今までの女性美容の延長線上で使い方を教えるのではなく、きちんと男性目線に立ってお伝えすることを使命として活動しています。
メンズメイクが確立したとき、それを受け入れられるような体制を構築したい

――メンズメイク第一人者の高橋さんならではのこだわりを教えてください。
高橋 基本的には、「美しくしない」ことです。最初にセミナーやレッスンを始めたときは、いわゆるホスト系の方々が来ると思っていたんです。でも実際は真逆で、普通の会社員などが「ちょっとコンシーラーを使ってみたい」「ちょっとファンデーションだけつけてみたい」と来るケースが多かったんです。そうなったとき、従来のように、「ファンデーションを塗るなら、まず眉毛から整えなさい」といった美容のメソッドやルールで行うと、離脱しちゃう男性が多い気がしたんです。
そういう方々でも気負わず、メンズメイクやメンズスキンケアを一つのツールとして使ってもらえるように、もう少し噛み砕いてあげるためには美しくやらない方がいいんですよ。男性が美しくなるのは少し違和感があるので、そういう部分は常に伝えています。ですから、例えば眉毛を描くときも、きれいに描いたり左右を合わせたりするのではなく、少し遠めの鏡から見て雰囲気が良くなったら、それはそれで正解だとお伝えしています。
もともとの素材をすごく変えるのではなく、ちょっと上乗せして120点になればいいんですよ。そこで物足りなくなったら次のステップに行けばいいので、全部をやる必要はないことはお伝えしています。
――今後の展開について教えてください。
高橋 メンズメイクやメンズ美容のことなら、弊社にお任せくださいというスタンスですが、それを今後も変わらず継続していくことが一つの目標です。
ただし私は、メンズメイクをみんなに提供しようというタイプではありません。必要な人がいたら、やりやすいような世の中になるために活動しているだけなんです。メンズメイクがこれから流行るかと言えば、そこには世の中の時代背景が大きく影響してくるので、正直分かりません。ただ、メンズメイクが世の中でもっと認められるようになったとき、「メンズメイクのことならMBP.NEXTに聞いてみよう」となる状態が、これからの展望であり目標です。

株式会社MBP.NEXT 代表取締役
メンズメイクアップアドバイザー(ヘア&メイクアップアーティスト)
高橋 弘樹 さん
1989年生まれ。大学生の頃、重度のニキビに悩みはじめたことがきっかけでメンズメイクの可能性に気づき、研究をスタートする。美容専門学校卒業後、メイクサロンやヘアメイク事務所でのアーティスト活動、化粧品開発等を経て独立。現在、マンツーマンによるメイクレッスンや、都内のメンズメイク専門サロンへの技術提供等、メンズメイクの第一人者として幅広く活動中。その確かな技術は多くの男性に支持されている。
また株式会社MBP.NEXTの代表取締役も務め2019年には、サロンワーク、コスメ商品、美容アプリの開発を軸とした男性美容全般を扱う事業をスタートさせている。
撮影:安場 郁
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